酵素の分類と命名法
生物の体の中では生命現象を維持するための種々の物質がバランスをとりながら反応して流れています。それらの様々な反応は多数の酵素が各々の触媒作用に応じて分担し、連携して進めることで成り立っています。ですから多様な酵素なくしては一瞬たりとも生命活動は成り立ちません。今までに3,000種以上の酵素が知られていますが、今ではこれらの酵素を系統的に整理して分類することが行われています。生体中の諸反応をその形式によって6 つに大別し、その反応形式に基づいて触媒する酵素を分類します。また酵素の正式名もこの分類法に基づいて命名することが国際生化学分子生物学連合で決められています。 次ページに、6 種類の反応形式とその酵素の分類を表2 に示します。
分類名 | 酵素反応形式 | 代表的な酵素の例 |
---|---|---|
1. 酸化還元酵素 オキシドレダクターゼ |
酵素酸化還元反応を触媒 | デヒドロゲナーゼ(脱水素酵素) レダクターゼ(還元酵素) オキシダーゼ(酸化酵素) オキシゲナーゼ(酸素添加酵素) |
2. 転移酵素 トランスフェラーゼ |
ある化合物の官能基を 他の化合物に移す反応を触媒 |
トランスアシラーゼ (アシル基転移酵素) トランスアミナーゼ (アミノ基転移酵素) ホスホトランスフェラーゼ (リン酸転移酵素) |
3. 加水分解酵素 ハイドロラーゼ |
加水分解反応を触媒 | エステラーゼ グルコシダーゼ ペプチダーゼ (ペプシン、トリプシンなど) |
4. 脱離酵素 リアーゼ |
化合物中のある基を 脱離し二重結合を生ずる反応、 逆に二重結合にある基を付加する 反応を触媒 |
デカルボキシダーゼ (脱炭酸酵素) アミノリアーゼ(脱アミノ酵素) ハイドラターゼ(脱水酵素) |
5. 異性化酵素 イソメラーゼ |
異性化反応を触媒 | ラセマーゼ エピメラーゼ ムターゼ |
6. 合成酵素 リガーゼ |
ATPのエネルギーを利用して 2つの分子をつなぐ合成反応を触媒 |
シンターゼ カルボキシラーゼ |
表2:酵素反応の分類とそれに基く酵素の命名
どの酵素も反応の種類を表す「系統名」と日常的に使う「常用名」とが付けられ、番号が登録されています。
常用名はその酵素が触媒する反応または基質の後にアーゼ(-ase)が付けられます。
(トリプシンなど古くから通用してきた名はそのまま用いる)
一例では常用名アルコールデヒドロゲナーゼは系統名ではアルコール:NADオキシドレダクターゼとなります。
酵素番号の表し方は、たとえばアルコールデヒドロゲナーゼの場合、EC1.1.1.1というようにECの後に4 つの数字で表します。
最初の数字は6つの主分類に対応し、1はオキシドレダクターゼに当たります。
2番目の数字で反応が起こる基質(この場合、アルコール)の種類を示し、3番目の数字で補酵素や
もうひとつの基質の種類(この場合、NAD)を表します。
最後の4番目の数字はこのサブクラスの中での通し番号となります。
同じグループの乳酸脱水素酵素はEC1.1.1.27となります。
酵素の量は酵素の活性から求める
酵素の量を測る場合、酵素そのものの量を直接求めることは(例えばたんぱく分子として重さを秤ることは)
多くの場合困難です。
酵素の量は分子としては通常極めて微量で低濃度であるためです。
しかし酵素の触媒作用はわずかな酵素量でもはっきり現れるため、この作用の強さを酵素活性として測定し、
その活性値を酵素の量として置き換えることによって求めます。
酵素分子の絶対量はわかりませんが相対的な量は正確に知ることが出来ます。
一定の条件の下では酵素の量は酵素の活性に比例するからです。
つまり酵素の量は活性値で規定するので「力価」として表されていると言えます。
酵素活性の単位
ある試料の中の酵素の量はその試料が示す酵素活性の強さに基づいて決められます。
酵素活性は触媒作用の強さを表わし、触媒作用の強さは反応の速度(=時間当たりの反応量)で測定します。
測定した反応速度を酵素の量として置き換えるのです。
酵素の1単位(Uと略します)は「一定条件下、1分間に基質の1μmolを変化させるのに要する量」と決められています。
1U=1μmolの変化/分
(1 mol は高等学校の化学で出てきたように分子数で6 × 1023個に相当する量)
酵素の活性は、①温度、②反応液のpH、③基質の濃度、などの測定条件によって変わります。
酵素の活性の測定は実施可能な限りその酵素反応にとって最も適した条件下(至適である)で行うことが理想です。
同じ酵素でも異なる施設の測定値を比較するには測定されたときの条件の異同を確認することが必要です。
執筆者:深見 博一(理学博士)
本文で引用した図表の出典
図1:D. E. Metzler, Biochemistry, Academic Press Inc., 1977
図2:R. K. Murray et al., Harper’s Biochemistry 21st ed., Appleton & Lange, 1988
図4:藤本大三郎, 酵素反応のしくみ, (株)講談社ブルーバックス, 2001. 12. 01.
上記の内容をPDFでダウンロードできます。
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